1. 雨水ネットワーク
  2. 全国大会について
  3. 第10回 雨水ネットワーク 全国大会2017in広島

大会テーマ

第10回 雨水ネットワーク 全国大会2017in広島

里山が育む 雨の恵を醸す 伝統の酒文化

開催日:2017年 8月4日・5日
会 場:東広島芸術文化ホール くらら

開催趣旨

雨に関わる市民、行政、企業、学術の情報交換や活動交流の場として2008年に設立された「雨水ネットワーク」。その全国大会は東京墨田区から始まり、福岡、松山、大阪、仙台、福井、愛知県長久手などでの開催を経て、記念すべき第10回の開催となる今年は、水の都広島の東部に位置する自然豊かな学園都市“東広島”にて開催します。

会場となる東広島市“西条”は、龍王山の麓に位置し、湧水の豊かな街。古くからその湧水を利用した酒づくりが盛んで、独自の「酒文化」が育まれてきました。また、街の中心に位置する「酒蔵通り」は、伝統的な建築群が残る観光スポット。毎年10月に開催される「酒まつり」は25万人以上を集客する大きな観光資源となっています。その一方、2014年8月広島市北部で発生した集中豪雨による土砂災害。甚大な被害をもたらたことは記憶に新しく、現在でも復興作業が進められています。

このように、雨は、様々な恵みをもたらす一方、時に大きな災害の引き金となってしまいます。この雨と上手に付き合いながら地域の文化を育み、一方で、予期せぬ自然災害の被害を少しでも減らすためには、これらの経験から学んだ教訓を、みんなで共有し、活かしていくことが重要です。そこで本大会では、「雨の恵みと酒文化」「里山と水災害」についてディスカッションし、その知見が新たなまちづくりの展開につながることを期待します。

パネルディスカッション

   〈コーディネーター〉 井上葉子(FM東広島パーソナリティ)
   〈コメンテーター〉  市川尚紀(近畿大学)
   〈 パ ネ リ ス ト 〉  森本幸裕(京都学園大学)・船本昌義(西条・山と水の環境機構) 中坪孝之(広島大学)

 大会一日目は、“雨水⇔防災⇔まちづくり”をテーマに、森本幸裕先生(京都学園大学)、木村良一様(広島市都市整備局)、船本昌義様(西条・山と水の環境機構)、中坪孝之先生(広島大学)の4名に講演をしていただき、その後、FM東広島パーソナリティの井上葉子様を進行役、市川尚紀をコメンテーター、森本先生、船本様、中坪先生をパネリストとして、約30分間のディスカッションを行った。
 講演では、森本先生は「雨庭を通したエコロジカルネットワーク」として、小規模分散型の雨のコントロールの重要性を、京都の背山臨水の環境利用の例を挙げながら解説した。船本様は、酒の仕込み水に使われる湧水保全のための龍王山の手入れ活動(山と水のグランドワーク)の内容を、中坪先生は龍王山から流れる西条町にとって重要な小河川・半尾川を生かしたまちづくりへの展開の可能性について講演した。これらの話を受けて、ディスカッションの目的を「東広島市の2つの取り組みをモデルに雨庭・自然・人のつながりを活かすまちづくり(活性化、防災力強化)をさぐる」とした。議論の概要は以下のとおりである。  

  •  ・「雨水」を排水の対象として考えると“うすい”と読み、恵みの対象として考えると“あまみず”と読むが、今回の
      大会では防災と環境まちづくりの両面から考えるので、両方の呼び方が混在している。
  •  ・「雨庭」の発想は、小規模分散型の雨水活用とそのネットワークによって、経済・社会・環境の課題を同時解決
      することである。
  •  ・大規模な雨水貯留施設もわかるが、これからは「小さな自然再生」が大切になってくる。小さな自然は、人々が
      身近に感じることができ、それが環境改善につながる。
  •  ・駅ビルのような建築の設備に、もっと雨水利用設備が採用して欲しい。
  •  ・酒造りのために行っている山の手入れ活動はとても素晴らしい取り組みである。山の手入れが、結果として土砂
      災害や雨水流出抑制につながっている。つまり、山を守る活動(環境)が結果として防災活動(治水)になって
      いると考えられる。
  •  ・上記の「山と水のグランドワーク」には、多くの方が参加しているが、その参加者は主に学生や企業、市民団体
      の参加が多く、個人の一般市民が少ないのが課題である。酒蔵通りで市民に開放している井戸水は広く認知され、
      水汲みに来る人も多いが、その水源地の龍王山のことまでは意識されていないのが現状である。
  •  ・山と水のことをもっと知ってもらうために、京都駅ビルの「雨庭」のように、西条駅や寺家駅でも何かできないか。
      龍王山と酒蔵の中間地点に立地していることもあるので。西条駅長さんも「山と水のグランドワーク」の活動に
      大変興味を持っている。
  •  ・「雨庭」のようなグリーンインフラが西条町でも実現すれば、将来、「半尾川(はんのをがわ」の3面貼り護岸
      を改善できるかもしれない。
  •  ・「半尾川」にホタルが飛び交えば、山陽鶴酒造がある酒蔵通りの西側まで活性化できるかもしれない。つまり、
      防災活動がまちづくりにつながることになる。京都の「哲学の道」も自然河川ではないがホタルが生息している
      ので、「半尾川」も十分資質があると思われる。
  •  ・自然と文化を切り離して考えるのではなく、一体として考えることが大切ではないか。日本庭園を見ると、周辺
      の自然と連続していて、それが文化にもなっている。
  •  ・秋の七草など、「知っているけど、見たことがない」というものが多くなっている。もっと自然を身近に感じら
      れる環境をつくるべき。
  •  ・琵琶湖疏水が使われている「平安神宮」は、小さな自然をネットワークするヒントになる事例である。
  •  ・ここでの「雨庭」の定義は、広義の意味で使用しており、植樹帯なども庭と考えることもできる。
  •  ・「防災」を全て行政に任せると、地下のコンクリート構造物での雨水排水という手段になってしまう。一時的に
      貯めた雨水をオリフィス(放流孔)で少しずつ放流する方法は、グリーンインフラでも同じ原理である。
      しかし、グリーンインフラを実現するためには、市民の協力が必要である。
  •  ・東広島には琵琶湖のような大きな湖はないが、約4000の「ため池」が点在している。これを「雨庭」ととらえて
      エコロジカルネットワークを構築できないか。
  •  ・「ため池」は管理の手間がかかる。その手間を楽しむ方法を考えることが重要。たとえば資源になるコイを育て
      ながら管理するとか。

総括すると、本講演会のテーマ“雨水⇔防災⇔まちづくり”のように、環境や社会、経済などの課題を同時解決する方法は、東広島という地域においても考えられる。しかし、同時に維持管理などの課題が発生するため、雨水ネットワークのような分野横断的な議論が今後も重要であることが認識された。

詳しくは報告書をご覧ください。

大会を終えて

 「第10回 雨水ネットワーク全国大会2017in広島」を2017年8月4日と5日の2日間、“東広島芸術文化ホールくらら”で開催いたしました。暑い中、全国各地からお集まりいただき、また記念すべき第10回の全国大会を東広島という田舎町で開催させていただいたことに対して心から感謝申し上げます。また、大会の準備から当日まで、多大な協力をしてくださった東広島市役所の方々、西条・山と水の環境機構の方々、広島大学自然体験活動サークル「学びの里」の学生さんたち、広島大学、広島工業大学、福岡大学の先生、学生さんたちにも改めて御礼申し上げます。  今大会のテーマは、“里山が育む 雨の恵みを醸す 伝統の酒文化”です。水の都広島の東部に位置する自然豊かな学園都市“東広島西条町”は、龍王山の麓に位置し、湧水の豊かな街。古くからその湧水を利用した酒づくりが盛んで、独自の「酒文化」が育まれてきたこともあり、このようなテーマを掲げました。その一方、2014年8月広島市北部で発生した集中豪雨による土砂災害によって甚大な被害がもたらされたことは記憶に新しく、広島の地で全国大会を開催するきっかけにもなりました。ところが、“雨水”をテーマに掲げるこの全国大会のちょうど1か月前(7月5日)に、皮肉にも九州北部豪雨 災害が発生し、多くの犠牲者、家屋への被害などが発生しました。この豪雨をもたらしたのは、2014年の広島の時と同じように積乱雲が次々と発生する線状降水帯のようです。被災された方々に対して、心よりお見舞い申し上げますとともに、被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。  このように、雨は様々な恵みをもたらす一方、時に大きな災害の引き金となってしまいます。この雨と上手に付き合いながら地域の文化を育み、一方で、予期せぬ自然災害の被害を少しでも減らすためには、これらの経験から学んだ教訓を、みんなで共有し、活かしていくことが重要と考え、一日目のテーマは、“雨水⇔防災⇔まちづくり”として、森本幸裕先生(京都学園大学)、木村良一様(広島市都市整備局)、船本昌義様(西条・山と水の環境機構)、中坪孝之先生(広島大学)の4名に講演をしていただきました。講演終了後には、FM東広島パーソナリティの井上葉子様を進行役として、森本先生、船本様、中坪先生によるパネルディスカッションを行い、森本先生の“雨庭のエコロジカルネットワーク”というアイデアを東広島に活かす方法などについて議論しました。  2日目は、“雨⇔酒文化”をテーマとして、午前に酒蔵通りの見学会を実施し、午後から再びくらら小ホールで講演会を行いました。講演会では、気象学の専門家である福岡義隆先生(広島大学、立正大学)による「雨水パワーによるまちおこし―雨水の風土論―」と題した基調講演がなされました。その後、水に関する様々な取組みとして、山本様(京橋川かいわいあしがるクラブ)、本田様(ガイア協同組合)、島崎様(ライオン)、島谷先生(あまみず社会研究会)から報告をいただきました。また、サロンホールでは、あまみず社会研究会 福岡大学によるタメルンジャーZショー、あまみずすごろく、ペットボトルで雲づくり、きき水とせっけん泡立ち実験、西条小学校の取り組み展示、様々な雨水活用製品カタログの展示などが行われました。その後、大会の締めくくりとして賀茂泉酒造・酒泉館の中庭で交流会を行い、酒造りの唄の披露や鏡割りが行われ、県外からの参加者に酒都西条の文化を感じてもらえたのではないかと思っています。  このような機会をいただいたことで、広島でも新たな雨水ネットワークが生まれようとしております。雨と上手に付き合うことができる新たなまちづくりが各地で展開されることを祈念して、御礼の言葉とさせていただきます。
                                           実行委員長 市川尚紀

全国大会の概要・大会報告書については下記よりご覧頂けます。

全国大会